
「あの先生の笑顔が素敵」「みんな楽しそうに遊んでいる」――― 保育園や幼稚園を見学したとき、目に見える温かさに心が惹かれるのは当然のことです。
もちろん、子どもたちの笑顔や先生の優しい声かけは「質の高い保育」に欠かせない大切な要素です。
しかし、その温かい関わりや楽しい活動を、安定して支えている「縁の下の力持ち」のような側面があることをご存知でしょうか?
それが、「保育の構造」です。
国際的な保育の質評価スケールであるECERS(幼児保育環境評価スケール)では、この「保育の構造」を最重要評価項目の一つとしています。
これは、一日のスケジュール、活動の選択肢、保育者の専門性といった、一見地味に見えるけれど、日々の保育の質を揺るぎないものにするための基盤です。
この記事では、ECERSが示す「質の高い保育の構造」とは何かを掘り下げ、それが子どもたちの情緒安定と主体的な成長にどう繋がるのかを解説します。
さらに、保育園選びの具体的なチェックポイントや、ご家庭で意識できるヒントまで、親御さんが「良い園」を多角的に見極めるための情報をお届けします。
わが子が安心して毎日を過ごし、その可能性を最大限に伸ばせるよう、保育の「裏側」にある大切な要素を一緒に見ていきましょう。
質の高い保育の土台:目に見えない「構造」の重要性

質の高い保育とは、単に先生が優しい、遊びが楽しいといった「目に見える」部分だけで決まるわけではありません。
国際的な評価スケールであるECERSが厳しくチェックしているのは、その温かい保育を安定して継続するための「基盤」です。
次からは、ECERSが示す具体的な評価基準に入る前に、まず保育の質を構成する要素を整理し、なぜその「構造」が子どもの成長において不可欠な土台となるのかを深く掘り下げていきます。
1.保育の質を二分する要素:「表面」と「構造」
保育の質を考えるとき、まず注目されるのが子どもたちの「目に見える質」、すなわち笑顔や先生の温かい声かけ、そして活発な活動内容といった表面的な要素です。
もちろんこれらは大切ですが、これらは日々の保育士のコンディションやイベントによって変動しやすいという側面があります。
一方で、その表面的な温かさを常に安定して提供し続けるための土台となるのが「構造の要素」です。
一日のスケジュールや、子どもに遊びの選択権が与えられているか、保育士の専門性は保たれているかなど、一見地味に見えるこれらの要素こそが、保育の「裏側」を支える揺るぎない基盤となります。
2.ECERSが「構造」を最重要視する理由
世界的に信頼される保育の質評価基準であるECERS(幼児保育環境評価スケール)は、この「構造」を極めて重視しています。
ECERSは、「活動の提供方法」「予測可能なスケジュール」「専門性と連携」という3つの主要な柱を通して、園の質の安定性を評価します。
この構造がしっかり整っている園では、保育士は過度な負担なく仕事に取り組めるため、子ども一人ひとりに丁寧に関わるゆとりが生まれます。
結果として、子どもは予測可能な安心できる環境の中で、情緒の安定と主体的な活動が可能になるのです。
それでは、この目に見えない「保育の構造」が、わが子の心身の成長に、具体的にどのような影響をもたらすのでしょうか?
ECERSの知見は、「質の高い構造」が情緒の安定、主体性の育成、そして継続的な質の高い関わりという、子どもの成長に不可欠な3つの要素を直接支えていることを示しています。
その影響を以下の表で具体的に見ていきましょう。
3.「構造の質」が子どもの成長に与える具体的な影響
この「保育の構造」が安定している環境は、子どもたちの心身の安定と、長期的な成長に大きな影響をもたらします。
構造的な要素が整っていることで、質の高い関わりが継続し、子どもの可能性を最大限に引き出します。
ECERSの構造的要素 | 成長への具体的な影響 |
予測可能で一貫したスケジュール | 【情緒の安定と適応力】 子どもに「次はこうなる」という見通しを与え、不安を軽減し、新しい環境への適応をスムーズにします。 |
活動の自由な選択 | 【主体性と自己肯定感の育成】 「自分で決める」経験を通じて、主体性や意欲を育み、自己肯定感を高めます。 |
保護者との連携・保育者への配慮体制 | 【質の高い関わりの継続】 保育の質の底上げと継続性を担保します。子どもたちは一貫して専門的で温かい関わりを受けられる基盤となります。 |
質の高い保育の「構造」とは?ECERSが示す3つの評価ポイント

ECERSの「保育の構造」サブスケールは、単に「運営が滞りなく行われているか」を見るだけではありません。
子どもたちの心身の安定と保育の質の持続可能性を支える基盤がどれだけ整っているかを評価する、主要な3つの柱を解説します。
この視点を持つことで、園の「組織としての成熟度」が見えてきます。
1.なぜ「構造」の整備が子どもの心と成長を支えるのか
質の高い「構造」の最大のメリットは、子どもたちに予測可能性という安心感をもたらす点にあります。
- 情緒の土台の確立:
予測可能で安定した「構造」(一貫したスケジュールやルール)は、子どもたちに「次はどうなるか」という見通しを与え、不安を軽減し、情緒を安定させます。
この安心感が、主体的な遊びや学びへの意欲を育む土台となります。 - 保育士の専門性の発揮:
構造が整備され、職員間の連携や保育者自身への配慮が整うことで、保育士は過度な負担なく仕事に取り組めます。
その結果、子ども一人ひとりのニーズを捉え、丁寧に関わるゆとりが生まれ、質の高い専門的な保育の提供が可能になります。
2.ECERSの評価基準を徹底解説|「構造」の3つの柱
ECERSが保育の構造を評価する際、特に重要視するのが以下の3項目です。
これらは、保育士の配置人数といった静的な基準ではなく、保育が動的に、いかに質の高いものとして継続されるかを示すものです。
サブスケール | 項目番号 | 評価項目 | 概要 | 質の高い保育における役割 |
---|---|---|---|---|
VI. 保育の構造 | 33 | 活動の提供方法 | 意図的な活動計画が柔軟に実行され、子どもが遊びや活動を自分で選択できる時間が十分にあるか。 | 【主体性の基盤】 意欲と選択の機会を保証する。 |
34 | スケジュール | 日々のスケジュールが、子どもの発達のニーズや個々のリズムに配慮され、予測可能で一貫性があるか。 | 【安心感の担保】 子どもに見通しと安定感を与える。 | |
35 | 保護者との関わりと保育者への配慮 | 保護者との連携、情報共有、そして保育者自身の専門性や継続的な研修、ニーズへの配慮。 | 【質の継続性】 組織的な専門性の維持と協働を可能にする。 |
3.「柔軟な活動選択」が引き出す子どもの力(ECERS項目33)
特に注目すべきは、単なる「自由遊びの時間」の有無ではなく、活動計画が柔軟に実行されるかという点です。
これは、計画された活動中であっても、子どもたちの興味や集中力の高まりに応じて、保育士が臨機応変に遊びを延長・変更できる裁量があるかを示します。
この柔軟性こそが、子どもが自発性(主体性)を発揮し、「自分で考える力」を育む上で決定的に重要となるのです。
保育園選びの新基準!ECERSが重視する「構造」3つのチェックポイント

ここからは、ECERSが示す3つの評価項目を、「親御さんが見学時に何をチェックし、何を質問すべきか」という実践的な視点に落とし込みます。
目に見えにくい「構造の質」を見抜く力を養い、ご家庭での子育てに応用するヒントもあわせてご紹介します。
1.活動の提供方法|子どもの主体性を伸ばす「自由な選択」【ECERS項目33】
チェックの視点 (園選び) | 家庭での工夫例 (応用) |
✅柔軟な活動計画: 一斉活動(設定保育)中やその前後で、子どもの関心や状況に合わせて計画を柔軟に変更している様子が見られるか? | ⭐「何をしたいか」の尊重: 「今日は何をしようか?」と子どもに選択肢を与える時間を作る。 提案する際も、「やりたい」という子どもの主体的な意欲を最優先する。 |
✅十分な自由選択: 子どもが自分で遊びを選び、主体的に夢中になれる「自由遊び」の時間が、一日のうちで十分に確保されているか? | ⭐「遊びの場」の整備: リビングの一角などに、子どもが自分で道具を選び、自由に活動できる「自己選択の場」を設ける。 |
2.スケジュール|心身の安定を支える「予測可能性」【ECERS項目34】
チェックの視点 (園選び) | 家庭での工夫例 (応用) |
✅一貫性と予測可能性: 一日のスケジュールに一貫性があり、子どもたちが「次はこれ」という見通しを持って過ごせているか? | ⭐「見通しの立つ」生活リズム: 毎日ほぼ同じ時間に起きる、食べる、寝るという基本的なルーティンを整える。 |
✅個々のリズムへの配慮: 食事や午睡、排泄などが、画一的ではなく、子どものお腹の空き具合や眠気に配慮して行われているか? | ⭐言葉による予告: 「ご飯を食べたらお風呂だよ」「絵本を読んだら寝ようね」など、次の行動を具体的に言葉で伝え、子どもに安心感と見通しを与える。 |
3.保護者との関わりと保育者への配慮|信頼と専門性の基盤【ECERS項目35】
チェックの視点 (園選び) | 家庭での工夫例 (応用) |
✅密な連携体制: 連絡帳、アプリ、面談などを通じて、園での様子が丁寧に共有されているか。 保護者の意見や相談に耳を傾ける姿勢があるか。 | ⭐親子の「振り返り」: 寝る前などに「今日は何が楽しかった?」と子どもの話を聞く時間を持ち、親子の信頼関係という構造を強固にする。 |
✅保育者の専門性・サポート: 職員間の協力体制が見られるか。保育士の研修や専門性維持に対する園の意識や配慮(離職率など)について質問できるか。 | ⭐夫婦間の「連携」体制: 夫婦間で子どもの情報や子育ての方針を共有し、一貫した関わりを保つことで、子どもに安定感を与える。 |
【親御さん向け】構造の質を見抜くための質問例
見学時に、目に見えない構造の質を確かめるための、具体的な質問例をいくつか用意しておきましょう。
- 👉活動について: 「一斉活動中、子どもたちが飽きてしまった場合、どのように対応されますか?」
- 👉スケジュールについて: 「お昼寝の時間は固定ですか?寝つきが悪い子や、先に起きた子への対応は?」
- 👉保育者について: 「保育士さん同士の情報共有は、どのような頻度・方法で行われていますか?研修の機会はありますか?」
- 👉連携について: 「子育てで悩んだ際、相談できる場や頻度はどのくらいありますか?」
【保育園選びの見学チェックリスト】ECERSの視点で「保育の構造」を見抜く!

目に見える楽しさだけでなく、保育の質を安定させる「保育の構造」こそが、園選びの重要な判断材料になります。
ここでは、見学時や面談時に、目には見えにくい構造の質を観察し、質問を通して具体的に把握するためのチェックポイントをリスト化します。
構造の柱 (ECERS項目) | 観察項目 | 観察チェックポイント | チェック欄 | 質問のヒント |
活動とスケジュール (項目33, 34) 【主体性と安心感】 | 自由な選択の機会 | ✅ 子どもたちが、自分たちで遊びを選び、夢中になっている時間(自由遊び)が、十分な長さで確保されているか。 | □ | 「お昼寝や食事の際、子どもの個々のリズムに、どこまで配慮されていますか?」 |
スケジュールの柔軟性 | ✅ 活動の切り替えが強制的・慌ただしい印象ではなく、子どもの興味に応じて柔軟に移行しているか。 | □ | 「一日のスケジュールの中で、遊びの延長や変更はどのように判断されますか?」 | |
予測可能性のヒント | ✅ 一日のスケジュール表が、保護者や子どもたちの目につく場所に掲示されているか。 | □ | ||
職員間の連携と専門性 (項目35) 【質の継続性】 | 職員間の雰囲気 | ✅ 保育士同士が協力し合い、助け合っている様子が見えるか?(イライラした雰囲気や指示待ちの態度がないか) | □ | 「職員間の連携について、具体的にどのような工夫をされていますか?」 |
専門性への配慮 | ✅ 職員室や連絡ボードなどが整理され、組織として落ち着いて運営されている印象を受けるか。 | □ | 「先生方が専門性を高めるために、どのような研修の機会がありますか?」 | |
保護者との関わり (項目35) 【信頼の土台】 | 情報の具体性 | ✅ 園での子どもの様子を、単なる報告ではなく、具体的なエピソードを交えて丁寧に伝えてくれるか。 | □ | 「子育てで悩んだ際、相談できる頻度や方法はどのくらいありますか?」 |
連携体制のヒント | ✅ 園と保護者の連絡手段(連絡帳、アプリ、送迎時の会話)や情報共有の頻度は適切か。 | □ | 「保護者からの相談や要望に、どのように耳を傾け、協働で対応しようとされますか?」 |
家庭でもできる!子どもの安定を支える「生活の構造」ヒント

保育園が整える「保育の構造」は重要ですが、ご家庭こそが、子どもにとって最も身近で重要な「生活の構造」です。
ECERSの視点を取り入れ、完璧を目指すのではなく、日々の生活の中で意識するだけで、わが子の安心感と成長を力強くサポートできます。
1.「見通しの立つ」生活リズムを作る(安心のスケジューリング)
子どもは、予測できるルーティンから強い安心感を得ます。生活の流れを構造化することで、情緒の安定と自立を促しましょう。
- ルーティンの定着:
毎日、ほぼ同じ時間に起きる、食べる、寝るという基本的な生活リズムを整え、子どもに予測可能性からくる安心感を与えます。 - 言葉による予告:
「手を洗ったらご飯」「絵本を読んだら寝る時間」など、次の行動を言葉で伝えることで、子ども自身に見通しを持たせ、行動しやすくします。
【おすすめ構造化アイテム】
👉毎日の流れを視覚的に提示!子ども自身がマグネットを動かして進行を確認できる「おしたくボード」
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▶️これらは、自立と安心感を促します。
2.親子の「協力体制」と「役割」の意識(活動の提供方法)
子どもが家庭という小さな社会の中で、自分の主体性や役割を理解する経験を促します。
- 主体性の育成:
家事の中で「これは一緒にやってみようか」「〇〇のお手伝いをお願い」などと子どもに役割を与えます。 - 協働の経験:
物事を協働で進める経験を通じて、子どもは「自分が必要とされている」と感じ、自己肯定感や責任感を育みます。
【主体性を育む、おすすめアイテム】
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👉手が届く高さに設置できる「子供用ステップ台(Amazonベストセラー1位)」
▶️これらは、自立と役割意識を育みます。
3.夫婦間の「連携」体制の強化(保育者への配慮と連携)
大人の関わりが一貫していることこそ、子どもに揺るぎない安定感を与える最強の「構造」です。
- 情報と方針の共有:
夫婦間で子どもの今日の出来事、困っていること、対応方針などを定期的に共有し、一貫した関わりを保ちます。 - 心のゆとりを配慮:
夫婦間で子育ての負担を分担し合うことは、保育者が互いに配慮し合う園の構造と同様に、親の心のゆとりを守り、結果として子どもへの温かい関わりに繋がります。
【おすすめ連携サポートアイテム】
👉連絡事項や対応方法を一目で確認できる「デジタルノート」や、子どもの成長記録を共有できる育児アプリ
👉子育ての悩みや情報を共有できる「子育ての気になる課題と対処がマンガでよくわかる書籍」が、参考となるでしょう。
4.親子の「振り返り」と信頼関係の構築(保護者との関わり)
一日の終わりに会話を交わす時間は、子どもの感情を整理し、親子の信頼関係という土台を強化します。
- 感情の整理:
寝る前などに「今日はどんなことがあった?」「楽しかったことは何?」と子どもの話を聞き、感情を言葉にする機会を与えます。 - 揺るぎない土台:
親が子どもの話に心から耳を傾けることで、親子の信頼関係という「構造」がより強固になり、子どもの自己肯定感の土台となります。
【おすすめ振り返りツール】
👉親子の会話を引き出し、感情を可視化・整理できる「感情表現カード」
👉親子の会話を記録し、成長を実感できる「3年連用育児日記」が、質の高い振り返り時間をサポートします
まとめ:「裏側」の質がわが子の未来を築く
この記事を通じて、子どもたちの健やかな成長を支えるのは、単なる楽しい活動ではなく、その「裏側」にある揺るぎない「構造」であることをご理解いただけたでしょう。
国際的な評価スケールECERSの教えは明確です。
質の高い保育は、「活動の選択」「予測可能なスケジュール」「信頼と専門性」という3つの柱によって成り立つ、「見えない土台」の上に築かれています。
この土台こそが、子どもたちの情緒安定と主体性を育む鍵となります。
だからこそ、保育園選びの際には、目に見える活動の楽しさだけでなく、園の運営体制、柔軟なスケジュール、保育者への配慮の姿勢、そして保護者との連携といった「構造の質」に必ず目を向けてください。
この「裏側」の質を理解し、賢く園を選び、さらにはご家庭でも安定した生活リズムやコミュニケーションという「生活の構造」を実践することで、わが子にとって最高の生育環境を、園と家庭の両輪で育んでいきましょう。